分析化学は、有機・無機・物理化学の延長線上にある科目です。
そのため、教科書や参考書によって有機寄りだったり、無機寄りだったりと内容が偏っています。
だからこそ、しっかりと本を選ぶ必要があります。
今回は、元院生の私が大学院入試や院生時代に使っていた教科書・参考書を紹介します!
あなたの目的に合った教科書・参考書で勉強しましょう!
本記事の内容
- 大学生におすすめの教科書・参考書
- 大学院入試でおすすめの教科書・参考書
- 専門的な機器分析の教科書・参考書
大学生におすすめの教科書・参考書
分析化学の教科書は2種類存在します。
- 分析化学の基本的な理論を解説したもの
- HPLCや質量分析など機器分析について解説したもの
この2つについて1冊ずつ教科書を使って勉強すれば、大学授業レベルで困ることはありません。
数ある教科書の中で、私が圧倒的におすすめするのは「クリスチャン分析化学」です。
基礎編と機器分析編のこの2冊を揃えれば間違い無いです。
分厚いですけど、分析法ごとのページ数は少ないので分かりやすく、分析化学を網羅できるボリュームがあります。
2005年の6版ではA5サイズで小さかったんですが、2017年に出た7版はB5サイズで一回り大きくなって見やすくなりました。
内容が見やすいことに加えて例題も豊富にあり、章末にはさまざまな大学の教授から寄せられた演習問題があるので、簡単な参考書をするくらいならクリスチャン分析化学の演習を解く方がいいです。
基礎編では、
- 分析器具の基本的な操作
- 有効数字や誤差、統計処理
- 化学平衡、沈殿反応、酸化還元滴定などの定性反応・定量反応
などの基本的な分析器具の正しい使い方や分析における数字の考え方、分析手法について紹介されています。
一方で機器分析編では、
- 分光分析法
- 原子分光分析法
- クロマトグラフィー(液クロ、ガスクロ)
- 質量分析法
などの具体的な分析機器を使った分析方法を紹介しています。
研究室に配属されると、機器分析を毎日のように行っていきます。
しかし、毎日使うにもかかわらず、機器の使い方や分析結果の考え方は先輩から教わることが多いため、断片的な知識しかつきません。
その知識不足を補ってくれるのが、分析化学の教科書・参考書です。
原理や得られる結果の意味などをしっかり把握しておくと、研究をスムーズに進めることができますし、知識がないが故に重要なデータを見逃すこともありません。
同じ質量分析装置を使っていても、MS測定しかできない人とMS/MS測定もできる人では、研究の進み方も結果から得られる考察の質も全く違ってきます。
なので、使う分析機器の専門書は一度目を通しておくといいですよ!
私が使ったことのある機器の専門書は後ほど紹介します!
大学院入試でおすすめの教科書・参考書
大学院入試の対策は、ひたすら演習問題で大丈夫です。
分析装置の使い方なんて聞かれたことないですし、有効数字や分析法などもでません。
それよりは、酸化還元電位や酸塩基平衡などの計算が主となります。
あとは、大学院によってはNMRや質量分析の結果を見て構造を推定させるような問題も出ます。
そのため、大学院入試では、
- 分析法の原理を理解して計算できるか
- 分析装置の結果を正しく読み解くことができるか
この2つの対策を行っていきましょう。
あまり知識がないという方向けの参考書
分析化学は簡単な教科書をもっているだけで、ほとんど知識がないという方は、
セミナーライブラリ化学の「演習 分析化学」もしくは三共出版の「分析化学演習」を選ぶといいです。
私は演習分析化学を参考書の1冊目として勉強をしていました。
内容はそんなに難しくありません。
自信をつけるための1冊としては、申し分ないでしょう。
ある程度知識はあるので、骨のある問題を解いて実力を付けたい方向けの参考書
- 旧帝大クラスを目指す
- がっつり問題を解きたい
- 分析化学で問題を落としたくない
そんな方には、「無機・分析化学演習―大学院入試問題を中心に」をしましょう。
1998年出版という古い本ですが、この本よりいい演習本がないというぐらい優れた参考書です。
タイトル通り、大学院入試の問題が演習として載っており、東大や京大を含む旧帝大の問題が多いです。
この化学演習シリーズは本当に良問ぞろいで、
- 大学院の過去問
- 分厚い、翻訳された海外の教科書(クリスチャン、アトキンス、マクマリーなど)
- 化学演習シリーズの参考書
この3つがあれば、その科目だけならどこでも受かるほどの実力がつきます。
大学院入試対策で分析化学を勉強するなら、無機・分析化学演習はこなしておくといいです。
他の化学演習シリーズもおすすめなので、有機・無機の参考書も探している方は参考にしてください。
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専門的な機器分析の教科書・参考書
機器分析の教科書・参考書は、機器の数だけあるので、全ては紹介しきれません。
今回は、大学院入試でも出る可能性があり、私がよく使っている機器の本を紹介します。
- NMR(核磁気共鳴装置)
- MS(質量分析)
- IR(赤外分光)
研究室でその機器を使用する方や、大学院入試の問題で機器分析が出る方は読んでおくといいでしょう。
上記の機器の全てを網羅しているのが、「有機化学のためのスペクトル解析法」と「有機化合物のスペクトルによる同定法」です。
名前が似すぎててややこしいですね笑
1冊目の「有機化学のためのスペクトル解析法」はNMR、MS、IRに加えてUVまで解説されています。
内容は簡単ではなく、初めて学ぶ人にとっては難しく感じるでしょう。
しかし、測定原理から実践的な測定方法、スペクトルデータ、例題・演習問題まで1冊に入っているので、教科書としてはいい本です。
2冊目の「有機化合物のスペクトルによる同定法」は1冊目よりも詳しく解説られているため、まだ分かりやすいです。
それぞれの言葉の意味について、詳しく説明されているので辞書的な使い方で使うと便利な本です。
情報が多く難しいことも多いので、自信の無い方はそれぞれ個別の簡単な教科書から始めることをおすすめします。
初学者向けの教科書たち
NMR (分析化学実技シリーズ(機器分析編3)
NMRを初めて学ぶという方にはこの本がおすすめです。
NMRって原理がそもそも難しすぎて、専門書が精一杯解説しても「???」ってなるんですよね。
そんな中、この本は「原理難しすぎだから、まずはスペクトル読めるようになってから勉強しよう」というコンセプトで、読者が一人でも独学できるように工夫が凝らされています。
なので、詳しい原理が5章までいかないと出てこないです笑
演習問題もあり解説も丁寧なので、実践的な知識を身につけながら問題を解いて理解を深めたいのであればベストな本です。
質量分析学 基礎編
専門書はあまり出版されることがないので、古い本に頼りがちですが、この「質量分析学 基礎編」は2016年に出版された比較的新しい本です。
そのため現代の知見に基づいて書かれており、より正確な知識が得られます。
簡潔でありながらも分かりやすく説明されているので、質量分析を使うのであれば読んでおきたい本です。
赤外分光測定法 基礎と最新手法
IRの基本から応用まで学べる一冊です。
私自身、IRについては「そんな詳しく学ぶ必要あるのか??」って思いながらもこの本を手に取ってみるとびっくりしました。
こんなに測定方法あったんだ…。
基本的なFT-IRから赤外イメージング、近赤外分光法、ラマン分光などさまざまな測定方法について解説されています。
あと、読んだことは無いのですが、もっと最新の本も出ていました(2018年)。
こちらはKindleで読めるので、重い本を持ち歩かなくてもいつでも読むことができます。
分析手法の正しい理解が研究を前に進ませる
研究に分析はつきものです。
いくら実験の数をこなしたとしても、正しく分析を行って適切な結果を得ることができなければ、研究に意味はありません。
研究者を目指す方であれば、大学院入試だけでなく就職してからも一生役に立つ知識なので、ぜひ専門書を読んでみてください。
大学院入試シリーズ